破壊的イノベーションに続く新たなイノベーションとは?

7年ほど前に読んだ本で、印象に残っているのがクレイトン・クリステンセン著「イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき 」という本だ。

著者のクリステンセンは、トップ企業の入れ替わりが激しい業界に注目し、かつてはトップを走っていた企業が、新興企業によっていとも簡単に負けてしまう理由を研究した。その結果、その理由が「破壊的イノベーション」 であることをクリステンセンは発見したという。

破壊的イノベーションとは、現行の製品よりも性能的・価格的に劣る製品が出現し、あっという間に市場を席巻してしまう現象をいう。例えば、デジタルカメラが良い例である。当時、銀塩カメラ(昔のフィルムのカメラ)が主流であったことろに、デジタルカメラが出現した。しかし、当時のデジタルカメラは、画素数も少なく(世界初のデジカメの画素数は1万画素)、記録枚数も少なかったので、このようなデジタルカメラが銀塩カメラに置き換わるとは誰も思っていなかった。しかし、あっという間にデジタルカメラが銀塩カメラを駆逐してしまったことはよく知られた事実だ。

デジタルカメラの破壊的イノベーションによって窮地に追い込まれたのがコダック社だ。コダック社は、顧客が求める要求に応えるために、品質の高いフィルムを開発することで、その地位を築いてきたため、品質が高くないデジタルカメラに経営の軸足を移すことができなかった。

同様の事例は、日本の半導体産業や、家電業界でも言えるのではないか。日本の企業は最高品質を求めて開発を行うのは得意だが、このような開発は「持続的イノベーション」と呼ばれる。中国や韓国の企業は、日本製品よりも性能的には劣るが価格が安い商品を圧倒的なスピードで市場投入することで、破壊的イノベーションを巻き起こし、市場を席巻してしまった。

最近では、製品やサービスの開発スパンが短くなっているため、破壊的イノベーションによって、トップ企業が入れ替わる現象が頻繁に起こるようになっている。また、従来のイノベーションは先進国の技術を新興国に適用することが多かったが(先進国→新興国)、最近では、新興国向けに開発した技術が、新興国で「ジュガードイノベーション(Jugaad Innovation)」と呼ばれるイノベーションを巻き起こし、そのようにして開発された技術が先進国に逆輸入される「リバース・イノベーション」という現象もあるようだ。

ジュガード・イノベーションとリバースイノベーションの具体例としては、例えば、米ゼネラル・エレクトリック(GE)が中国向けに開発した超音波検査機器がある。GEは、中国の地方の診療所向けに、パソコン程度の大きさのポータブルの検査機器を開発したところ、現地では大ヒットして、2002年当初は1台3~4万ドルしたものが、2007年には1台1万5千ドルまで価格を下げられるようになった。そして、このように、低価格で小型の超音波検査機器は、救急車の車内搭載用として、あるいは大病院の緊急処置室用として、先進国に逆輸入されることになったのである。

世界経済の成長ドライバーが中国、インドをはじめとする新興国にシフトしていくことは間違いないから、今後も、ジュガード・イノベーションやリバース・イノベーションが世界を変革していくことは間違いないだろう。オーストリアの経済学者ヨーゼフ・アーロイス・シュンペーター(Joseph Alois Schumpeter)によって唱えられた「イノベーション」自体も時代の流れに応じて変遷していることも見逃せない。

では、ジュガード・イノベーションやリバース・イノベーションに続く、新たなイノベーションは何だろう?ひょっとしたら、「人工知能」と「ビッグデータ」とが結びつくことによって興される「AIイノベーション」かも知れない。人工知能に、過去に起こったあらゆる種類のイノベーションを学習させるとともに、マーケットに関するビックデータを与えることで、隠れたニーズを推測し、推測したニーズに対応するサービスや商品をいち早く開発することができる。そして、その新たなサービスや商品の販売実績をフィードバックすることで、AIイノベーションの精度を高めるPDCAサイクルを高速に回すことができる。もちろん、機械が我々人間の移り気なニーズをどこまで理解できるかという問題もあるのだが。